北海道帯広市の神経精神科・内科「医療法人社団博仁会 大江病院」

医療法人社団博仁会 大江病院

第32回 「睡眠障害(下)」

執筆者/院長 大江 徹

 睡眠障害の治療について、診断された病名それぞれに治療が異なり、この紙面ですべてを伝える事は難しいと思います。不眠を呈する疾患については、それぞれの疾患の治療が優先されます。また、環境の要因があればそれを改善する事が重要です。ここでは一般的な薬物療法についてお話ししたいと思います。
 薬物療法は睡眠導入剤によります。睡眠導入剤は過去には麻酔薬や抗けいれん薬といったものが用いられていましたが、現在ではそれらより依存性が少なく比較的安全なベンゾジアゼピン系という不安や葛藤を抑えてくれる薬物の内、睡眠導入作用のより強い薬剤を用います。その睡眠導入効果の作用時間から、超短時間型、短時間型、中間型、長時間型というふうに分類しています。
 不眠症の症状として、例えば寝付きが悪い(入眠困難)場合には、超短時間型睡眠導入剤を用います。夜中に何度も目を覚ます(中途覚醒)場合や、朝早く目を覚ます(早朝覚醒)場合には、中間型や長時間型睡眠導入剤を用いる等の使い分けをします。また、入眠困難と早朝覚醒の場合には超短時間型と中間型や長時間型睡眠導入剤との併用も行います。また、入眠前の不安や葛藤を抑えるために抗不安薬を入床前に服用してもらう事もあります。その他に夢が多く寝た気がしない場合(うつ病の睡眠症状に多い)には抗うつ薬(夢見を抑えてくれる作用が強い)を用いたりもします。個々の症状に応じてこれらの睡眠導入剤を合わせていきます。
 しかし、これら睡眠導入剤にも副作用があり(睡眠導入剤の主作用は当然睡眠導入です)そのいくつかを紹介します。健康で自然な睡眠とは、大きく分けて1浅睡眠期、2深睡眠期、3REM睡眠期(夢を見ている睡眠)という3つの段階があり、これらが順序良くおとずれます。睡眠導入剤は、この自然な睡眠を妨げないもの、そして朝すっきりとして眠気が残らないものが理想的です。これまでの多くの睡眠導入剤は深睡眠期を妨げてしまい、寝てはいるが何となく熟睡感がないということもありましたが、最近はこの深睡眠期を妨げない薬も出てきました。特に高齢者にはふらつきがよくみられる副作用ですが、ふらつきの少ない薬も開発されています。また超短時間型睡眠導入剤は30分程で効果が出るので、服用して寝入るまでの間の記憶が残らない(健忘、アルコールと併用する事でも起こる)ことが起こりますが、寝入る用意をして服用し床に入る事が重要です。その他には口の乾きや眠気が残ることもよく見られる副作用です。睡眠導入剤は以前の薬と比べて依存性は少ないのですが、全く無いとは云えません。よって、専門医が個々の症状に適切に薬を合わせいくことが大切です。また睡眠導入剤のかわりにアルコールを寝酒として飲んでいる人が多くいますが、寝酒とは「酒を飲まないと眠れない」という依存(アルコール依存、依存症ではないが)になる可能性があります。アルコールは先にも述べた深睡眠期を妨げてしまうこともあり、アルコールより睡眠導入剤の方がはるかに安全で効果的です。
 睡眠障害の診断と治療について、この十勝には専門医がいます。独立行政法人国立病院機構帯広病院精神神経科の本間裕士先生を紹介します。
 次回から、当院の精神保健福祉士が精神科の保健、福祉についてお話しします。

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