北海道帯広市の神経精神科・内科「医療法人社団博仁会 大江病院」

医療法人社団博仁会 大江病院

第5回 「精神分裂病から統合失調症へ」

執筆者/院長 大江 徹

 2002年8月の日本精神神経学会において、「精神分裂病」という病名は正式に「統合失調症」に変更されました。何故変更されたかと云うと、病気になった人々とその家族が、「精神分裂」という言葉のもつイメージに象徴されるような病気そのものに対する誤解や偏見から自由になりたいという強い願いからであると思います。
 今思うと、10年程前までの私は、この病名を本人や家族に告知をしづらい思いでいました。慢性的な経過になることや、将来において様々な困難が予測される等のネガティブな見方があったからです。告知を受ける本人や家族の否認や落胆など感情面の配慮から告知をためらい、「幻覚妄想状態」などと状態像を伝え、「分裂病ですが希望を持って治療していきましょう」と胸を張って云える様な治療技術を持ち合わせていませんでしたし、偏見や誤解に満ちた社会に何にも云えなかった未熟な治療者としての姿がありました。
 しかし21世紀に入り、治療法の発展として新薬(非定型抗精神病薬)が登場しました。それまでの「幻覚、妄想や興奮を抑える作用」に「意欲を改善させる作用」が加えられた薬のため、数年間の長期入院者が退院したり、自宅に閉居していた人が社会活動に参加したり、新規に発病しても比較的短期間で軽快する人が多くなりました。また副作用が少ないことから、服用を途中で止めてしまうことによる再発が少なくなりました。薬物療法ばかりではなく、入院や通院における精神療法や社会療法により、そして退院後の生活支援の充実によるところも大きく、「人格が荒廃する」などという恐ろしい表現に代表される障害が残ることも少なくなり、「一生病院で過ごさなくてはならない」という病気ではなく、通院のみで治療が可能になることが多くなりました。メディアも精神医療を取り上げる機会が増え、浦河町の「べてるの家」の活動がテレビで紹介されたり、アカデミー賞をとったアメリカ映画「ビューティフルマインド」が上映されるなど、この病気にとって画期的な時代に入ったという印象を強く持ちました。
 私も生き生きとして生活している回復者から多くを学ぶことができ、本人や家族の思いには及ばないにしても、病名の持つイメージを一新したいという思いが生じたことは事実です。例えば治療が進歩し癌を告知しやすくなったように、今なら「統合失調症ですが、希望を持ち治療をすれば症状が残ったとしても社会生活は可能な病気です」と告知することができます。病名が変わり社会全体が「新たな統合失調症の姿」を知り理解がより深まれば、様々な可能性や変化が生じてくるものと期待が膨らみます。
 これからこの病気の成り立ちや性質、最近の研究の成果などをお話しします。

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