北海道帯広市の神経精神科・内科「医療法人社団博仁会 大江病院」

医療法人社団博仁会 大江病院

第21回 「神様、仏様、患者様(上)」

執筆者/名誉院長 坂井 敏夫

 ここまで大江病院のドクタ-リレ-にお付き合いいただきありがとうございます。まだまだ続きます。
 さて、ここからは私の担当で、テーマは認知症ですが、ちょっと一休みをしましょう。数年前に私が帯広医師会誌“つどい”に投稿しました駄文で少し息抜きをして下さい。

 いったいいつ頃から、患者さんを『患者様』と呼ぶようになったのでしょうか。
 今ではおそらく全国的にかなり多くの病院や医院で日常的に『患者様』と呼ばれていると思われます。というのも、最近の医学雑誌で『患者様』に関する投稿を何度も見かけたからです。しかも、たいていは批判的なものが多く(医者からのものでは)、なかには『患者様』からも「気持ちが悪いからやめてほしい」という意見もありました。
 それではどうして患者さんを『患者様』と呼ぶようになったのでしょうか。 それは、多分このところ大流行の接遇研修の影響が大きいようです。元々接客業の世界で行われてきたお客様への言葉使い・対応のノウハウが、一種の接客業である医療の世界に導入されたためだと思われます。
 確かに学ぶべきことはたくさんあります。しかし、いわゆる接客業と私たち医療の世界の対人関係はまったく同じとは言えないと思います。
 たとえば、デパートやお店に買い物に行ったり、飲食店に食事に行ったり、乗り物を利用して旅行に行くことは、基本的には楽しいことのはずです。そんな時に丁寧なもてなし受けることは気分も良くなりますし、また利用しようという気持ちにもなります(中にはやかましすぎる挨拶や馬鹿丁寧な対応にうんざりすることもありますが)。そういう状況では、亡くなった三波春夫ではないですけれど、確かに『お客様は神様』なわけで様付けで呼ばれることにもそんなに違和感はありません。
 ところが、医者には行かないで済むなら誰も行きたくないわけです。救命救急的な状況で救急車で運ばれる時以外は、不安な気持ちで嫌々ながらやむをえず行くことになります(中には例外的に楽しみにしている人もいるかもしれませんが)。

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