北海道帯広市の神経精神科・内科「医療法人社団博仁会 大江病院」

医療法人社団博仁会 大江病院

第18回 「アルコール依存症の特徴」

執筆者/副院長 大江 平

 今回からはアルコール依存症の話です。現在、日本のアルコール依存症者は240万人と言われています。しかし専門治療を受けているのは残念ながら1%程度であり、90%以上は主に身体的治療のみを受けているというのが現状です。これは身体症状のみを治し、再び飲める体にして帰ることになり、医療側も依存症者を再生産しているということになります。
 昔から人類はアルコールの持つ不安、緊張緩和の作用を上手に使ってきました。社交飲酒は現代の社会には欠かせないものとなっています。しかし成人の日常生活のなかで、飲酒や酩酊の許される時間帯はそれほど多くはありません。勤務中は飲まない、朝からは飲まない、など多くの規制を取り入れて行われるのが通常の飲酒行動です。しかしアルコールには依存性があるため、このような規制が守れなくなる可能性があります。
 アルコールは一時的に気分を高揚させ上機嫌をもたらす精神作用があり、入手が容易なため精神的な依存を生じやすい物質といえます。精神依存が形成されるとストレスによる気晴らし飲酒の頻度が増え、社交飲酒から孤独に酔いを求める飲酒スタイルに変わります。そして常習的に飲酒していると同じ程度の酔いを得るために飲酒量を増やす必要が出てきます。これは耐性形成というもので依存を進行させる重要な原因となります。耐性と精神依存の進行のために最終的には連続飲酒状態に陥ります。このような状態が続くと次に身体的な依存が形成されます。身体依存とは常にアルコールを摂取した状態で身体的な平衡状態を保っていたため、飲酒を中断することによりこのバランスが崩れ、身体が反応し、離脱症状が出現する状態です。眠って目を覚ますと一層けだるく、やるせない気分に圧倒されるうえ、発汗、発熱、振戦などの離脱症状に悩まされるのでその苦しみを避けるために飲酒を続けるという悪循環を繰り返します。
 この悪循環のために生活上の問題も生じてきます。欠勤、信用の失墜、約束の不履行、失職、家族関係の崩壊など様々です。そのためなんとか断酒や節酒を試みますが挫折することが多く、ますます問題は深刻となり、もはや自らの力で飲酒をコントロールすることは困難となります。すべての行動はアルコール中心となり、飲酒問題に対する否認が強まり、自己中心性が顕著となります。また自責感が強くなり、飲み方は強迫的で外部への関心を失っていきます。
 このようにコントロールを失い、状況に応じた飲み方が出来なくなるのがアルコール依存症の特徴です。次回はアルコール依存症の治療について説明します。

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