北海道帯広市の神経精神科・内科「医療法人社団博仁会 大江病院」

医療法人社団博仁会 大江病院

第17回 「引っ込み思案は治療が必要か?」

執筆者/副院長 鎌田 裕樹

 多くの人の前で話しをすることは誰でも緊張するものです。まして、知らない人達の中でとなればなおさらでしょう。それでも生活の中ではそのような状況が避けられない場合があります。そのような時に緊張や不安が強すぎると、動悸や呼吸困難などのパニック発作を生じたり、そうならないようにその状況を避け続けた場合、昇進の機会を逃したり、重要な人間関係にほころびを生じてしまうことが繰り返されます。このように人前で行動が出来ない為に毎日の生活習慣や職業(学業)上の機能、または社会的活動や友人関係に支障を来している状態を社会不安障害と呼びます。
 社会不安障害はいままで、「引っ込み思案」「恥ずかしがりや」などの性格の問題と捉えられ、本人がほとんど医療機関を受診する事がなく、また医療者側も個性の問題として考え治療の必要性について疑問視していたために、医療の対象として重要視されてきませんでした。しかし、社会不安障害は、有病率が3~13%と従来考えられていたよりも高いこと、10歳代半ばで発症し慢性的経過をたどるため生活に与える影響が大きいこと、うつ病やパニック症候群、またアルコール依存症などの他の精神科的問題を併発する割合が非常に高いことから、決して放置できる問題では無く、また近年になり副作用が少なく有効な治療薬が現れたことから、注目を集めています。社会不安障害の治療は本人の持つ不安を軽減し、社会的な回避行動を減らすことが目標となります。薬物療法は前回お話ししたパニック症候群と同様に、抗不安薬や抗うつ薬の一種であるSSRIを組み合わせた治療が行われます。薬物の効果発現までの期間はうつ病やパニック症候群と比較して長期間を要し、また全体の治療期間も長くなるのが普通です。そのため精神療法や行動療法が同時進行で併用されます。
 さてドクターリレーの私の番では、うつ病、パニック症候群、社会不安障害と、治療薬として抗うつ薬が用いられる病態についてお話ししてきました。これらに共通していることは、その病態が社会生活上の深刻な問題を引き起こしているにも拘らず、病気として認知されず、治療されないまま放置されている例が非常に多いことです。またこれらの病態が最近注目されているのは、副作用が少なく長期の連用が可能な薬剤が開発されたという治療的な背景もあると思われます。精神科受診への抵抗は現在でもまだまだ大きいと考えられますが、治療は日々進歩しています。一人で悩まずにまずはご相談下さい。
 次回からは、当院医師の大江平医師が担当します。

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